205. Fairytale of New York ニューヨークの夢

Fairytale of New York ニューヨークの夢 : The Pogues ザ・ポーグス

 これはニューヨークでの成功を夢見たアイルランド移民の男女が、共に夢破れて年老いたクリスマスの物語です。 アイルランドやイギリスではクリスマス・ソングとして人気がありますが、アイルランド移民の歴史や歌詞の内容が分からないと歌の意味が伝わらないでしょうから、日本ではまだ知名度も人気もありません。


Alubm : If I Should Fall from Grace with God

 堕ちた天使

Released: 1987
Written by: Jem Finer, Shane MacGowan
Produced by: Steve Lillywhite

    ザ・ポーグスについて:
 フリー百科事典『ウィキペディア』  

 ザ・ポーグスはアイルランドの伝統音楽とパンク・ロックが融合したようなフォーク・ロック・グループです。 この曲は彼らにとって最大のヒットとなり、リリースされた年に全英2位となりました。 その後もクリスマス・ソングとして度々再リリースされてその度にチャートを賑わせ、現在ではUKで最も人気の高いクリスマス・ソングの一つとなっています。
 タイトルの「Fairy tale」(フェアリーテール)は「おとぎ話」(直訳すると「妖精の作り話」)のことですが、夢破れて貧しく年老いた男女の厳しい現実が描かれています。 でもこうした曲の方がハッピーなクリスマス・ソングよりもずっと心にしみるのですね。 少なくとも私には・・・

 この曲を歌っているのはメンバーの Shane MacGowan (シェイン・マガウアン)ですが、デュエット相手の女性シンガーはプロデューサー Steve Lillywhite (スティーヴ・リリーホワイト)の奥さん Kirsty MacColl (カースティー・マッコール)です。 女性ヴォーカルを使ってみたいと思ったスティーヴ・リリーホワイトがメンバーに聴かせてみたところ、ポーグスのメンバーは彼女の声を気に入って歌うことになったとか。 歌の途中には老夫婦が互いに口汚く罵りあう場面がありますが、最後はホロリとさせる結末も用意されたいます。

 かつて肥沃なイングランドから追われたケルト民族は、北のハイランド(スコットランド)や西のアイルランド島に逃れ、更に新天地を求めてアメリカに渡っても、やはりイギリス人より悪い条件で働かなければならなかったようです。 歌の中にニューヨーク市警の聖歌隊が出てきますが、「ニューヨークにいるアイリッシュはギャングか警官か消防士になる」―と言われ、それすらできない者はこの歌の男のように酒に溺れギャンブルで身を持ち崩していたのでしょう。

 この歌の中には、アイリッシュの歌が二曲出てきます。 一つは泥酔してぶち込まれたトラ箱の中で老人が歌う「The Rare Old Mountain Dew」で、つまりその老人も自分と同じようにアイリッシュで酔いつぶれており、自分の行く末を見る思いがしたことでしょう。
→ ザ・ポーグス自身の歌う The Rare Old Mountain Dewを聴く

 もう一つはニューヨーク市警の聖歌隊が歌う 「Galway Bay」 です。 警官にはアイリッシュの人が多かったということで、その人たちが典型的なアイルランドの歌をうたうという訳です。
 これには幾つかのヴァージョンがあり、有名なのがアイルランドの女性歌手 Dolores Keane (ドロラス・キーン)の歌うもの。→ Galway Bay(Dolores Keane)を聴く
 Bing Crosby (ビング・クロスビー)の歌うヴァージョンも良く知られていて、こちらは歌詞の政治的な部分を少し変更して歌っているようです。→ Galway Bay(Bing Crosby)を聴く

●The Pogues 当時のメンバー:
*Shane MacGowan - vocals, guitar
*Spider Stacy - tin whistle, vocals
*James Fearnley - accordion, piano, mandolin, dulcimer, guitar, cello, percussion
*Jem Finer - banjo, saxophone
*Andrew Ranken - drums, vocals
*Philip Chevron - guitar, mandolin
*Darryl Hunt - bass, percussion, vocals
*Terry Woods - cittern lute, concertina, strings, banjo, dulcimer, guitar, vocals



Grooveshark で Fairytale of New York 『ニューヨークの夢』を聴く: (4:31)

  ●歌詞と訳詞●

It was Christmas Eve, babe   クリスマス・イヴだってのに、ベイビィ
In the drunk tank   (酔っ払ってぶち込まれた)トラ箱(泥酔者保護室)の中 ※
An old man said to me,   (先客の)年寄りじいさんが 俺に言ったもんさ
"won't see another one"   「他の奴の面(つら)なんぞ 見たくもねぇ」って
And then he sang a song   そして そのじいさんが歌い始めたのが(アイルランドの)
"The Rare Old Mountain Dew"   「The Rare Old Mountain Dew」だったので ※
I turned my face away   俺は(同じ境遇の奴から) 顔をそむけて
And dreamed about you   そして お前のことを夢見たんだ

Got on a lucky one    当たりが出たぜ
Came in at ten to one   10倍の(配当金の馬)が来たんだ ※
I've got a feeling   何となく いいことがありそう
This year's for me and you   今年は 俺とお前にとって
So Happy Christmas   だから 「ハッピー・クリスマス」
I love you, baby   愛してるぜ、ベイビィ
I can see a better time   もっといい目が見られそうだ
When all our dreams come true   俺たちの夢が すべて叶う時に

(ここから曲調が変って、女が歌う 今と昔のこと)
They've got cars big as bars   あの人たちは バーみたいなデカイ車に乗って ※
They've got rivers of gold   金の(流れる)川でも あるみたいだっていうのに   
But the wind goes right through you   あんたの身には (冷たい)風が吹き抜けて
It's no place for the old   老いぼれには 居場所も無い有様ね
When you first took my hand   あんたがアタシの手を 最初に握った時
On a cold Christmas Eve   それは寒いクリスマス・イヴのことだった
You promised me   あんたはアタシに 約束したわ
Broadway was waiting for me   「ブロードウェイが きみを待っているんだ」ってね


(男女の デュエット)
You were handsome   『アンタは (かつて)ハンサムだったわ』
You were pretty   『お前だって (以前は)きれいだったよ
Queen of New York City   (まるで)ニューヨークの女王だった』

When the band finished playing   バンドが 演奏を止めても
They howled out for more   人々は「もっとやれ!」って、叫んで ※
Sinatra was swinging,   (フランク)シナトラが スィングすると ※
All the drunks they were singing   酔っ払いたちは みんなで歌っていた
We kissed on a corner    我々は (部屋の)片隅でキスをして
Then danced through the night   それから 夜通し踊り明かしたっけ   

(Chorus)
The boys of the NYPD choir   NYPD(ニューヨーク市警)の青年聖歌隊が ※
Were singing "Galway Bay"   「ゴールウェイ湾」の歌をうたい ※
And the bells were ringing out   (教会の)鐘の音は 鳴り響いていた
For Christmas day    クリスマスの日を(祝って)

(ここから現実に戻って、老夫婦の口汚い罵り合いになる)
You're a bum   『アンタは(役立たずの) のらくら者 ※
You're a punk   アンタなんて くだらないチンピラよっ!』 ※

You're an old slut on junk   『テメーこそ 老いぼれ売女(ばいた)で 人間のクズぢゃねぇか
Lying there almost dead   ほとんど寝たっきりの この死にぞこないが
on a drip in that bed   ベッドで 点滴打って(何とか生きて)るくせしやがって!』

You scumbag, you maggot   『なにさ悪党、この蛆虫(うじむし)野郎
You cheap lousy faggot   アンタなんか ケチでシミだらけのホモ野郎よ!
Happy Christmas your arse   「ハッピー・クリスマス」なんて クソくらえだ
I pray God it's our last   神に祈って、アンタとは もうこれっきりにしてもらうわ!』


(Chorus)
The boys of the NYPD choir   ニューヨーク市警の青年聖歌隊が
Were singing "Galway Bay"   「ゴールウェイ湾」の歌をうたい
And the bells were ringing out   (教会の)鐘の音は 鳴り響いていた
For Christmas day    クリスマスの日を(祝って)

(ここから怒りが鎮まって、しんみりとした互いの本音を語り合う)
I could have been someone   『俺は今と違う 他の誰か(のよう)にも なれたはずさ』
Well, so could anyone   『そう、誰だってそう言うわ
You took my dreams from me   アンタが あたしから(女優になる)夢を奪ったのよ
When I first found you    あたしが初めて アンタを見かけた時にね』

I kept them with me, babe   『その(夢)なら 俺が(今でも)預かってるよ、ベイビィ
I put them with my own   俺の(夢)と一緒に (大切に)しまってあるさ
Can't make it all alone   (俺は)一人じゃ 何もできなかったから
I've built my dreams around you   お前のそばで 俺の夢を築こうとしたんだ』


(Chorus)
The boys of the NYPD choir   ニューヨーク市警の青年聖歌隊が
Were singing "Galway Bay"   「ゴールウェイ湾」の歌をうたい
And the bells were ringing out   (教会の)鐘の音は 鳴り響いていた
For Christmas day    クリスマスの日を(祝って)


※ drunk tank :警察の「drunk」(泥酔者)を一時的に収容する「tank」(タンク)の保護室。 「ブタ箱(監獄)」に対して、通称「トラ箱」。(虎とは「のん兵衛」のことを指します)
※ The Rare Old Mountain Dew :アイルランドの古い歌で、「Mountain Dew」はウィスキーの俗語とか。 つまり、そのじいさんも同じアイリッシュで同じ酔っ払いということになる。  
※ bars :「bar」には「横木」、「障壁」、「閂(かんぬき)」、「(バーの)カウンター」など色々な意味があるが、bars と複数形になっているので、何となく大きな物としか言えません。
※ ten to one :10対1の確率で、10倍の(主に馬券)が当たったということでしょう。「十中八九」という意味でも使うようですが、仕事の無い人間がやることはギャンブルに酒と相場が決まっています。

※ howl :(犬や狼などが)「吠える」こと。
※ Sinatra :フランク・シナトラのことで、その当時流れていたのは「New York, New York」だろうと、Wikipedia では言っています。
※ NYPD :The New York City Police Department ニューヨーク市警察の頭文字。イギリス人より低い立場のアイルランド移民でも就職できたので、多くのアイリッシュがいたという。「ニューヨークのアイリッシュはギャングか警察官、あるいは消防士になる」と言われていた。
※ choir :聖歌隊 「boys」と言っても警官であれば、ある程度若い「青年」ということでしょう。 実際にはニューヨーク市警に聖歌隊はいないとのこと。

※ Galway Bay : アイルランド西端にある湾の名前で、これも典型的なアイルランドの歌。
※ bum :「浮浪者」、「役立たず」、「のらくら者」。ここから教科書には載らない汚い言葉が続きます。 良い子のみなさんは真似をしないで下さい。
※ punk(チンピラ)とjunk(薬物中毒の廃人)、dead(死)とbed(ベッド)、maggot(蛆虫)とfaggot(ホモ野郎)、arse(【卑】けつ、尻、ass[ケツ]とも)とlast(お終い、発音は「ラス」で「ト」は不要)と汚い言葉が並び、語尾が似た発音の単語を続けて韻(いん)を踏んでいます。

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テーマ : 洋楽歌詞対訳
ジャンル : 音楽

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No title

訳詞を読みながら頭の中でこの曲を再生し、涙が出そうになりました。
ワタクシが大好きな1曲を取り上げてくださってありがとうございます。

Re: No title

日本では知名度も人気も無い曲で、いわゆる「ハッピー・クリスマス」とは正反対の内容ではありますが、好きな曲なので採り上げてみました。
私もこの曲を聴くと涙が出ます。

曲のリンクが切れていたので修正して、ついでにYouTubeも貼っておきました。
こうしたことはコメントでも付かないと気付かないことが多いので、ありがたく思っています。
コメント、ありがとうございました。

なぜか涙がでます

ずいぶん古い歌だったんですね。
偶然ラジオから流れてきた時、なぜか惹かれてすぐにYouTubeで拾って何度も聴いていました。

どんな内容かまったくわからかいのに、陽気なメロディーにすごく切なさを感じます。
本当はどんな事歌ってるのかなぁっ、とずっと知りたかったんです。

詳しい解説をありがとうございます。
歌の背景を知り、切ない気持ちになった訳がわかりました。
アイルランドの人にとっては、厳しい時代のソウルソングなんですね。
教えてもらって感謝です。
これからも、大好きな曲であり続けると思います。

Re: なぜか涙がでます

この曲は日本でほとんど知られていないし、歌詞の内容が分からなければ尚更でしょう。
私も最初はメロディから入りました。

アイルランド移民のことは日本人にはあまり縁が無いかもしれませんが、ハッピーなクリスマス・ソング以外にこんな曲もあるということを知ってもらいたくて採り上げたので、お役に立てたなら何よりです。

コメントありがとうございました。

ありがとうございました

昨年のクリスマスの午前0時から放送してた、沢木耕太郎さんのラジオの1曲目がこの曲でした。

僕も、ホントに素敵なメロディーと出だしの歌声、その後のメリーゴーラウンドのような流れるような曲調に、打ちのめされました。

以来、タイトルもわからず歌詞は切れ切れにしか聞き取れないまま、毎日のように聞いてました。

歌詞の内容までわかって、この曲がさらに好きになりました。
きっと、人生の中の大切な1曲になりそうです。
教えていただいて、本当にありがとうございました。

Re: ありがとうございました

あまり日本では知られていない、そしてハッピーでないクリスマス・ソングでも、こうしてどなたかのお役に立てたのであれば採り上げた甲斐があったというものです。

ここ一月半ほどコメントが無く、「誰も読んでいないのかな?」と思っていたところなので、こちらこそお礼を言いたい気分です。
コメント、ありがとうございました。

承認待ちコメント

このコメントは管理者の承認待ちです

ありがとうございます

この曲は、幼少期に父と聴いていた思い出の曲です。
小さい頃から大好きで、でも聴くと涙が出ていました。
他にも同じ様な方々がいて嬉しく思います。
今月、結婚式でこの曲を流すつもりです。

この歌は本当に大好きです!

Re: ありがとうございます

親子で同じ曲が聴けるというのは素敵ですね。
この曲を聴くとそろそろクリスマス・シーズンという気がしてきます。

歌詞の内容は汚い言葉が並んでいるので結婚式向きとは思えませんが、この曲を知っている日本人はあまりいないでしょうし、思い出の曲であればご両親も喜んで下さるでしょう。

コメント、どうもありがとうございました。

No title

初めまして。ある曲を検索してここにたどり着いたら意外な曲を発見して思わず書き込みしてます。
私も実は簡単な音楽ブログ、老後の楽しみに自分の好きな曲ばかり集めて書いてあとで一気に読み返そう!という事で始めていて今年で4年になります。そこでも紹介したこの曲がまさか他の人も知ってるなんて!!って思って思わず嬉しくて書き込みしてしまいました。
私はこの曲はある映画から知ったのですが、ケルト民族や歴史なんかは全くわかりませんが、昔からブリティッシュロックやアイリッシュ音楽というのがどうも肌に合うみたいで(笑)、この曲も一番最初に聴いた時から強烈に印象が残って大好きになりました。

またこちらに遊びにこさせて下さいませ。

Re: No title

この曲は日本ではあまり知られていませんが、イギリスやアイルランドでは定番のクリスマス・ソングとなっているようです。
日本でもピーター・バラカンさんが今の季節になるとラジオで流していたので、少しずつ知られてはいるみたいですね。

ヒット曲を採り上げていればアクセス数も増えるのでしょうが、自分の好きな曲をやる方がストレスが溜まらないし長く続けられるので、結果として地味な曲が多くなっています。

コメント、ありがとうございました。
プロフィール

Sumi Haruo

Author:Sumi Haruo
老母の介護をしていた頃に、息抜きも兼ねて始めたブログです。
介護の終わった現在はそんな暇もなく休止状態で、たまの休みには気が向くと更新もしています。

※記事へのリンクは自由ですが、対訳はあくまでも私個人の解釈なので、訳詞の無断転載は固くお断りいたします。

訳詞を掲載したい場合は、「記事へのリンクを貼る」という形にして下さい。できれば少しは努力して、自分で翻訳して下さい。

訳詞についてご意見のある方は、「歌詞の翻訳について」をご覧になってからコメントするようにして下さい。

好意的なコメントには出来るだけ返信するようにしていますが、あからさまな悪口は公開せずにサッサと削除しております。それが人情というものでしょう。

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